invisible hit counter
ホーム スポーツ 大相撲の「大銀杏」とは何か?結い方の歴史・床山の伝統技術を徹底解説

大相撲の「大銀杏」とは何か?結い方の歴史・床山の伝統技術を徹底解説

若月 陽菜 若月 陽菜 • 更新: • 公開: • 読了約 9 分
目次

大相撲の本場所で土俵入りする関取たちの頭上にそびえ立つ、見事な扇形の髪型「大銀杏(おおいちょう)」。それは単なる伝統美にとどまらず、江戸時代から脈々と受け継がれてきた日本の伝統文化と、専業職である「床山(とこやま)」たちの熟練の技が凝縮された芸術品です。関取の証であるこの髪型には、どのような歴史的背景があり、どのような手順で結われているのでしょうか。

本記事では、大銀杏の魅力や歴史的変遷、欠かすことのできない床山の役割、そして意外と知られていない日常のお手入れや技術の裏側まで、2026年現在の視点から徹底的に紐解いていきます。

大相撲の華「大銀杏」とは?関取の証としての誇りと歴史

相撲大銀杏

大相撲の土俵において、十両や幕内の力士(関取)が結う大銀杏は、見る者を圧倒する優美さと力強さを兼ね備えています。その名の通り、髷(まげ)の形がイチョウの葉が広がったような扇形を描いているのが最大の特徴です。幕下以下の力士が結う「丁髷(ちょんまげ)」とは一線を画し、一人前のプロフェッショナルとして認められた力士だけに許された特別なステータスとなっています。

歴史を遡ると、力士の髪型のルーツは江戸時代初期の武士や一般庶民の髪型に端を発します。当初は実用的な髷であったものが、相撲の人気が高まるにつれて観客を魅了する見世物としての側面が強まり、より大きく、より美しく形作られるようになりました。江戸時代の浮世絵などにも、すでに現代の大銀杏の原型となる見事な髷を結んだ力士たちの姿が描かれています。

また、大銀杏は単なるファッションではなく、力士の安全を守る役割も担ってきました。頭部を保護しつつ、土俵での激しいぶつかり合いにも耐えうる頑丈さを備えた構造は、何百年もの試行錯誤を経て洗練されてきたものです。現在でも、本場所や地方場所の土俵入り、横綱の土俵入りにおける太刀持ちや露払いなど、華やかな場面でなくてはならない存在感を放っています。

知られざる床山の世界:伝統の技術を支えるプロフェッショナル

力士自身が自分の髪を結うことはできず、そこには「床山(とこやま)」と呼ばれる専門職の存在が不可欠です。日本相撲協会に所属する床山は、力士と同じように相撲部屋や審判部などに属し、力士の髪型を日々整える重要な役割を担っています。見習いから特等床山に至るまで階級があり、長年の修練を積んだ者だけが横綱や関取の頭髪を結うことを許されます。

床山の仕事は単に髪をまとめるだけではありません。毎日の稽古で乱れた髪を整え、本場所前には時間をかけて完璧な大銀杏へと仕上げます。使用する道具にもこだわりがあり、専用の櫛(くし)や、和紙で作られた「元結(もとゆい)」と呼ばれるこより状の紐を巧みに操ります。特に、髪を固めるために使われる「ビン付け油(鬢付け油)」の配合や塗り加減は、床山の腕の見せ所です。

木蝋(もくろう)やビロウドなどを主原料とするビン付け油は、独特の甘い香りを放ち、相撲部屋や本場所の支度部屋を包み込む象徴的な匂いとなっています。この油があるからこそ、数分間にわたる激しい相撲の取組であっても、大銀杏が崩れずにその美しい形状を保つことができるのです。床山たちの職人技とプライドが、大相撲の伝統を裏側から支えていると言えます。

大相撲の髪型・階級別スタイル対照表

大相撲の世界では、力士の地位や経験年数によって結える髪型やその名称が厳格に定められています。以下の表は、力士の階級に応じた髪型の違いと、それぞれの特徴をまとめたものです。

力士の階級・立場 髪型の名称 特徴・結える条件
幕下以下(序ノ口〜幕下) 丁髷(ちょんまげ) 新弟子から幕下までの力士が結うシンプルな髪型。大銀杏よりも小さく、日常の稽古に対応した形。
十両・幕内(関取) 大銀杏(おおいちょう) 一人前の証である扇形の髪型。本場所の土俵入りや取組で結う。
大関・横綱(結びの一番など) 大銀杏(本銀杏・大島田など) より大きく豪華に結われた大銀杏。横綱の土俵入りでは特別な飾り結びが見られることもある。
引退時(断髪式) 断髪(ざんばら髪へ) 現役生活の最後に、関係者やファンによって鋏(はさみ)が入れられ、髷を切り落とす。

大銀杏の結い方と維持の秘密:崩れない美しさの裏側

大銀杏を実際に結い上げるプロセスは、まさに職人技の連続です。最初に、力士の髪を丁寧に梳かし、たっぷりのビン付け油を根元から毛先まで均一に塗り込みます。この油を馴染ませる作業が不十分だと、途中で髪がほぐれてしまう原因になります。油でしっかりと髪を一つにまとめ上げた後、頭頂部に向かって束ね、専用の元結でしっかりと縛り上げます。

その後、頭頂部の毛束を前方へ折り曲げて「銀杏の葉」の形に整えます。この曲線美を作り出すのが床山の腕の見せ所で、左右のバランスやボリューム感を絶妙な加減で調整します。最後に、根元をしっかりと固定し、全体が美しく見えるように形を整えて完成です。所要時間は床山の技量や力士の髪質にもよりますが、およそ30分から1時間程度の集中作業となります。

維持する上での苦労も少なくありません。力士たちは毎日激しい稽古を行うため、髪に砂や汗、埃が入り込みます。そのため、床山は定期的に髪を洗い、再び油を塗り直して結い直すメンテナンスを行います。特に本場所中は毎日のように結い直しが必要となり、床山たちの朝は力士以上に早い時間から始まります。

現代に受け継がれる伝統と、大銀杏がもたらす文化的な価値

現在、日本古来の伝統的な髪型を日常的、あるいは定期的に目にできる機会は非常に限られています。その中で、大相撲の大銀杏は、江戸時代からの結髪文化を現代にそのまま伝える貴重な生きた文化遺産としての側面を持っています。テレビ画面や本場所の会場で力士の頭上に輝く大銀杏を見ることは、日本文化の奥深さを体感する瞬間でもあります。

また、外国人力士の増加が進む現代の大相撲においても、出身国を問わずすべての関取がこの伝統的な髪型を結い、日本の伝統作法を身につけて土俵に上がっています。文化の継承者としての床山の存在を含め、大銀杏は国境を越えた相撲ファンを魅了する重要な要素となっています。

力士が引退する際に行われる「断髪式」では、長年苦楽を共にした大銀杏にハサミが入れられ、髷が切り落とされます。この儀式は、力士としての人生の区切りを示すとともに、頭髪という身体の一部を通じて伝統文化が次の時代へと受け継がれていくドラマチックな瞬間であり、多くの人々の感動を呼んでいます。

【相撲大銀杏】に関するよくある質問(FAQ)

Q1:大銀杏はすべての力士が結うことができますか?
A1:いいえ。大銀杏は原則として「十両」以上の地位に昇進した関取だけが結うことを許されています。幕下以下の力士は「丁髷」となります。

Q2:大銀杏を結うときになぜ独特の匂いがするのですか?
A2:髪をまとめ、形を固定するために使用する「ビン付け油」の香りです。植物性の油や木蝋などを原料としており、甘い芳香が特徴で、相撲部屋や支度部屋の代名詞となっています。

Q3:床山になるにはどのような修行が必要ですか?
A3:義務教育を卒業した者が日本相撲協会に採用され、各相撲部屋や床山部屋の親方のもとで長年の見習い修行を積みます。道具の扱い方や結髪の技術を何年もかけて学び、経験を重ねることで昇進していきます。

大相撲の土俵に彩りを添える大銀杏は、単なる髪型ではなく、江戸時代から続く日本の伝統技術、歴史、そして関取たちのプライドが宿った文化的シンボルです。その美しい形状は、職人である床山のたゆまぬ努力と高度な技術なしには成り立ちません。

時代が移り変わっても、土俵の上で輝きを放ち続ける大銀杏と、それを支える人々の職人魂は、日本が誇るべき無形の宝物です。今後も大相撲を観戦する際には、力士の技や体格だけでなく、頭上に結ばれた伝統の芸術品にもぜひ注目してみてください。

同じカテゴリの記事

若月 陽菜

芸能取材11年。事務所の公式リリースと番組公式サイトを一次情報として照合し、裏付けの取れない話は記事にしません。

おすすめの関連記事